CARLIFE

〈匠〉36食堂

今回訪ねたのは、板野町の春にんじんを使った加工食品ブランド「36食堂(さんろくしょくどう)」を立ち上げた藤田さん。
“もったいない”から始まった、小さくて大きな挑戦のお話である。


 

|徳島に来て、春にんじんに驚いた

結婚を機に、香川県から徳島へやってきた藤田さん。この土地で暮らし始めて、まず驚いたのが「春にんじん」の美味しさだったという。

「甘いし、やわらかいし、“にんじんってこんなに美味しいんや”って思いました。

徳島県は春にんじんの一大産地として知られている。けれど、そのことを意外と県内の人が知らない。そこに、少し不思議さも感じていたそうだ。

「香川では“うどん県”って、みんな自然に言うんですよね。“日本でも有数のうどん文化”っていう空気が当たり前にありました。でも徳島の春にんじんも、もっと誇っていいのになぁって」。

もちろん、生産者さんたちは日々、黙々と良いものを作っている。ただ、その魅力を発信する部分は、どこか控えめ。そこが、藤田さんには少しもったいなく映った。

 

そんな藤田さんが、さらに衝撃を受けたのが、収穫時期の畑の風景だった。形が少し曲がっている。大きさが規格に合わない。それだけの理由で、出荷されず畑に残されたり、規格の箱に入れることができなかったりする大量のにんじんたち。




「“ボロやけど…”って農家さんがくださるんですけど、食べたら本当に美味しいんですよ」。

味に問題はない。むしろ、春にんじんならではの甘みや香りはしっかりある。けれど、流通の仕組み上、規格外の野菜がそのまま店頭に並ぶのは、まだ簡単ではない。だったら別の形で届けられないか。そうして藤田さんがたどり着いたのが、“加工”という選択肢だった。

「板野町を盛り上げたい」
「せっかく美味しいのにもったいない」

そんな想いから、「36食堂」はスタートした。


 

|“ちゃんと美味しい”を、もっと気軽に


現在、「36食堂」では、春にんじんを使ったさまざまな商品を展開している。印象的だったのは、“頑張りすぎなくていい”という視点。母でもある藤田さんは、「できるだけ余計なものを入れず、でも手軽に食べられるものを作りたい」と話す。

最初に生まれた商品が、「ほりこむだけの丸ごと野菜ご飯」。



名前の通り、お米と一緒に炊飯器へ“ほりこむだけ”。スイッチを押せば、やさしいスープで炊き上げられた春にんじんの甘みとうまみを、まるごと味わえる。

「にんじんが苦手な子が、“これ美味しい”って食べてくれたりするんです」。

忙しい日でも、ちゃんと美味しいものを食べたい。でも、毎日すべてを丁寧に頑張るのは難しい。そんな暮らしのリアルにも寄り添ってくれる商品だ。もうひとつ人気なのが、にんじん・塩・オイルだけで作ったシンプルなペースト。牛乳や豆乳と合わせれば、濃厚なポタージュに。パスタソース、ドレッシング、リゾットなど、使い方は自由自在だ。“手間抜き”なのに、ちゃんと美味しい。その絶妙なバランス感覚に、藤田さんらしさがにじんでいるように感じた。


 



春にんじんの美味しさ。
農家さんの想い。
地域の風景。
そして、見た目や形にこだわらないという選択。

それらを無理なく、確かに暮らしへ届けていこうとしている。地域の魅力を静かに掘り起こしながら、新しい形へ変えている”匠“に出会うことができた。

 

ブランド名の「36(さんろく)」にも、この土地への想いが込められている。

まずひとつは、板野町の自然豊かな“山麓(さんろく)”。
そして、徳島県のナンバー「36」。

さらに、日本三大暴れ川のひとつ・吉野川が、“四国三郎(しこくさぶろう)”と呼ばれていることにも重なる。

偶然のようでいて、不思議とつながっていく「36」という数字。
藤田さんは、「いろんな意味が自然と重なって、“36しかないな”と思ったんです」と笑う。

ロゴに描かれた山のイラストも、板野の山麓風景をイメージして阿讃山脈モチーフにしているそうだ。






▶ 36食堂
オンラインショップ https://36shokudo.theshop.jp/
Instagram https://www.instagram.com/36shokudo